一切れのシベリアが呼び覚ます、70年前の記憶

羊羹をカステラで挟んだ「シベリア」。
どこか懐かしいその姿は、映画『風立ちぬ』にも登場し、昭和の甘味として再び注目されています。戦前から戦後にかけて、関東のパン屋や駅の売店で手軽に買えたおやつでした。
ある日、会員様の「シベリアが食べたいね」という一言から、このお菓子を用意することになりました。静岡ではあまり馴染みのないお菓子ですが、関東出身の方々にとっては思い出深い味。
静岡市では、鷹匠にある「モンテローザ」さんで販売しているので、老人ホームで少し多めに買ってお裾分けすると、包みを開けた瞬間に甘い香りが広がり、あちこちから声が上がりました。
包みを開けると、ふんわりとカステラの香りが広がりました。
羊羹が透けて見えるその断面に、皆さんの視線が集まります。
「懐かしいねぇ」「これ、よく食べたよ」
最初に声を上げたのは、千葉出身の男性でした。
「母親がね、たまに寄ってくれたんですよ。ガラスケースの中にシベリアが並んでいて、五円で一切れ。それを買ってもらえる日はうれしかったなあ」と笑いながら話してくださいました。
「どんな味だったんですか?」と尋ねると、
「昔のはもっとずっしりしていた気がします。羊羹が甘くて、腹にたまるんですよ」と、懐かしそうに目を細めていました。
周りからは「五円って安いね」「その頃は五円で何が買えたの?」と声が上がり、自然と昔の暮らしの話に花が咲きました。
隣に座っていた東京育ちの女性は、少し遠くを見つめながら話してくださいました。
「うちではね、お客様が来たときに母が出していたの。私が“これ食べたい”って言うと、母が“半分だけね”って。それがすごくうれしかったのよ」
そう言って笑う姿がとても柔らかく、まるで当時の少女のようでした。
「羊羹がつやつやしていてね、ちょっと贅沢なお菓子だったの」と続ける声に、周りも自然と頷いていました。
少し離れたところでは、静岡市出身の男性がゆっくりと手に取って眺めていました。
「名前は聞いたことあるけど、食べるのは初めてだな」と話しながら、興味深そうに一口。
「素朴でいいね。甘すぎないところが落ち着く」とゆっくり噛みしめていました。
地元ではあまり見かけないお菓子だからこそ、どこか新鮮な驚きがあったようです。
地域によって、懐かしむ人もいれば初めて味わう人もいます。
けれど同じテーブルを囲んでいるうちに、自然と会話が弾んでいきました。
「昔はお砂糖が貴重だったね」「甘いものって、心が元気になるんだよ」
そんな言葉の一つひとつに、時代を生き抜いてきた人の強さと優しさが滲んでいました。
そのとき、一人の方がシベリアをうっかり落としてしまいました。
「切り分けましょうか?」と声をかけると、その方は笑って「勿体ないから全部食べたい」と答えられました。
その姿を見て、私は胸が熱くなりました。
きっと「今あるものを大切に味わう気持ち」こそが、人の心を豊かにするのだと感じました。
「このお菓子、冷たいお茶と合うね」「羊羹の甘さが優しいね」
そんな言葉が飛び交い、初めての方も懐かしい方も一緒になって味わっていました。
誰かが「もう一つ食べたいな」とつぶやくと、笑い声がふわっと広がりました。
たった一切れのシベリアが、半世紀以上前の放課後や家族の記憶を呼び覚ましました。
懐かしさと新鮮さが混ざり合うその時間には、世代も地域も越えた温かいつながりがありました。
その光景を見て、心の豊かさとはこうした小さな時間の中にあるのだと、改めて感じました。
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